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渡会は腕のいい五十代の整形外科医で、
充実した日々を送っている。
休みの日にはスカッシュをし、女たちと
煮詰まることのないスマートな恋愛を
繰り返す。誰とも結婚する気はない。

彼自身、こんな風に浅瀬にとどまったまま
穏やかに暮らしていくと思っていた。
その彼が初めてひとりの女性に激しい
恋をした…

この物語は、渡会の知人である僕と
彼の秘書であるゲイの青年から語られる。

軽い恋愛はインテリアやファッションの
ような、いわゆる趣味、嗜みなんだろうな
と思う。自分好きの延長。
そこから一歩踏み込むと、世界は全く
違う顔を見せる。

誰かに本気で恋をすることに免疫がない
渡会は、ある深刻な状況に陥っていく。
極限に近づく姿が淡々と、かつ克明に
描かれる。

それを追いながら、恋の病と精神の病に
境はあるのか、と考えていた。
少し狂うのは楽しい、少しの負荷なら
気持ちいいのだ。
でも、それが一日24時間を支配するように
なったら手遅れかもしれない。
その頃にはもう、恋から自分を引き剥がせ
ない。癒着してしまった皮膚みたいに。

彼は幸せだったのだろうか、と考える。
幸せか幸せじゃないかなんて、もう
どうでもよかったのではないか。

彼の部屋なのに本人がいない。
自分なんてものはとっくに明け渡して
しまっているのだ。

読後、いいようのない脱力感が残る。
でも、もう一度頭から読み返したいと
思わせる。
どこがだろう…
私にも、わからない。


女のいない男たち女のいない男たち
(2014/04/18)
村上 春樹

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スポーツ用品店の営業マンである木野は
予定より早く出張から戻った夜に
自宅で妻の浮気を目撃してしまう。
相手は自分の職場の同僚だった。

木野はその足で自宅を出て行く。
勤め先を辞め、妻と別れ、ひっそりとした
隠れ家のようなバーを開く。
バーの名は木野という。

そこには一匹の猫が居付き、ぽつぽつと
常連客がつきはじめる。

カウンターの端に座って静かに本を読む
スキンヘッドの男。
情事の前か後に訪れる不穏な気配を
漂わせたふたりの男女。

木野は淡々と日々を送る。
古いレコードをかけて、客に酒を出す。
そしてある雨の夜、木野は常連客と
暗い秘密を共有する。

いつのまにか、店に猫が姿を見せなく
なる。
代わりに現れるようになったのは
たくさんの蛇だった…

店の空気というのは、どんな風に
つくられるのだろう。
誰かが訪れ、気配を落とし、帰って行く。
それが何度も何度も繰り返される。
誰かのため息が空気にとけて、別の客が
それを吸い込む。

読み進めるうちに、いつのまにか物語から
漂う濃い霧のようなものに取り巻かれて、
動けなくなってしまった。
私は陶酔しているんだと気づくのに
時間がかかった。
毒がまわった身体で、きらきらとした
啓示を見上げているようだった。

物語に出てくる回路が、自分の中にも
あるのはうすうす知っていた。

これからは注意深く迂回しなくては
ならない。
止まない雨の夜には、特に。


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ハウス、と呼ばれる部屋にひとり
身を潜めることになった羽原の元に
連絡係である女が週に二度通ってくる。

女はスーパーで調達した食料品や、
リクエストした雑貨などの物資を
運んでくる。
彼女は淡々と冷蔵庫にものを詰め、
次の買い物リストを作る。
それが終わると、二人は自然と
決まったことのように寝室へと異動する。

女は行為の後、ベッドの中での気怠い
時間に、興味深く不思議な物語をひとつ
語りはじめる。
それは記憶と現実と妄想が交じったもので
強い吸引力を持ち、彼は次第に彼女の
語りに惹かれていく。

ある午後、彼女が高校生の頃、
空き巣の常習者だった話がはじまる…

この物語では、外枠はぼんやりとしか
描かれていない。
男が身を潜めることになった背景も、
連絡係としての女も、その向こう側の
組織も。
だから余計に女が乗ってくる古いマーチの
青や、女が語り出すとろりと重い澱の
ような物語が際立つ。

枠のディテールがかっちり決まって
しまうと、そこに入れる中身は自由度を
失うということなのだな、と思う。

彼女は空き巣に入った家の床にぺたりと
座り、ひっそりとした静寂の中で
自分が過去にヤツメウナギだった頃の
記憶を思い出す。

人生に一度ぐらい熱病にかかったような
出鱈目な時期があるんじゃないのかしら
あなたにはなかった?
女は尋ねる。

そうね、あったわ、私は答える。


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前の回で少し触れましたが、
この物語の、次元がずれる感じがよくて
コンパクトな短編で、ここまでもって
いくのはすごい、と圧倒されます。
これまで30回くらい読んでいますが、
その度に。

はい、次元ずらしますよーという号令も
なく、場面切り替えもなく、気づいたら
その場所に立っている。
凍てついた空気、夜空に流れていく雲。
ここなのに、ここじゃない場所。

好きすぎて、なかなかこの場で記事を
書けずに一年経過。
なんというか、伝えようのない部分が
多すぎるんです。

もう、お願い、読んで~!
その一言で紹介したいというところが
本音です。

以前何かのインダビューで春樹氏が、
ちょっと表現がよくないけど、短編小説は
読み手をこまさなくては…
と話していたのですが、
その表現ぴったり。わかるー!と
思った記憶があります。

この物語は映画化されているのですが
それがまた、すごくいいので
興味がある方はぜひ観てほしいです。

やわらかく抑えた色味や、沈黙の度合い、
時間の流れかたがいいんです。
この監督のセンスすごいなぁって。
お母さん役の女優さんがたおやかで
妖艶で、みとれます。

彼が真夜中に踊るシーンは、言葉を失う
美しさ。
アングル、表情、夜の漆黒。

ああ、もう一回観たい。

この物語に対する私の熱量が伝わった
でしょうか。
実は私もすでに神の子どもたちの
ひとりです。

あ、踊りの時間だ。



神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)
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主人公の青年は、美しく信心深い母親と
物心ついた頃からふたり暮らしです。

あなたのお父様は神様なのよ
彼は母親からそういわれて育ちます。

風変わりで少女のように無垢な母親との
距離感を一定に保つには努力が必要で
その一切をごまかすために
彼はせっせと女の子とつきあいます。
母親の愛情は純粋すぎてあらゆる垣根が
ないのです。

ある夜、彼は耳たぶが欠けた中年の男を
見かけて、同じ電車に乗り込み、
あとをつけます。
いつか母親から聞いた、昔の恋人である
産婦人科医の話を思い出しながら。

あのひとが生物学上の父親だ…

これは神話なのでは、と思うのです。
彼は父に会おうとし、神に会おうとする。

誰もいない、真っ暗な二月の野球場で
彼は雲の流れにあわせて踊ります。
地面を踏み、手足を優雅に動かし、
身体でいくつもの図形を描いて。

そのシーンは、神に捧げる祈りのよう。
静謐で根源的な哀しみをまとい
触れてはいけない、
美しいよりもっとずっと透明な。
次元が少し、ずれる。

揺れる炎に見入ったときのような
ずっと見ていたい、ここから出たくない…
そんな感覚にとらわれてしまいました。

誰もが苦しむ場所で、誰もが迷う場所で、
生き続けること、踊り続けること。

読み終わったあと、夜空を見上げました。



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