上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 

 

 

 

 
私はあのひとに慣れてしまったから
ほかのものに慣れることはできないのよ

夫がいる身でありながら、妻をもつ男と
激しい恋に落ちて駆け落ちする女、葉子。
やがて男は、必ず迎えにくると言い残して
彼女の前から姿を消す。

葉子は生まれて間もない娘を連れて東京を
出て、二人で埼玉、千葉、神奈川…と町を
転々としながらひっそりと暮らす。
ピアノ講師と夜のアルバイトで生計を
立てながら、再び男と出会うことだけを
信じて。

草子はパパの顔を知らない。
お伽話のように語られるパパのエピソード
を聞きながら、ママの盲信的な愛情が
たまに怖くなる。そして哀しくなる。
ママはいつも心がここにない、と。
そして成長を重ね、自立を目指して
現実的な道を選んでいく…

今に焦点が当たってないひとってたまに
いるけれど、どこかぼんやりしていて
定まらない目をしているように思う。

葉子は男だけに執着して十年以上の時を
生きている。それだけ長く抱えてしまうと
放棄することもできなくなるだろうし、
それ以外の選択肢も全く見えないだろう。
そしてだんだん自分が半透明に、亡霊の
ようになっていくのも止められない。

本当に男に会いたければ興信所でも
何でも使って調べればいい。
でもそれをしないのは、どこかで現実を
知りたくない気持ちがあるからだろう。

状況は八方ふさがりなのだ。
でも彼女にそう伝えても、笑って
相手にされなさそうな気がする。

恋は頭がおかしくなっている状態だと思う
けれど、それが一時的であることと、
遺伝子を残す生物的ミッションと絡んで
いることから、美しいものとして
位置づけされているのではないかしら。
一時的でない狂気は恋のカテゴリから外れ
別の色彩を帯びてきてしまう気がする。

物語のトーンは非常に美しくて、
ピアノの音がゆったりと奏でる哀しい
旋律を思わせる。
いつまでも聴いていたいけれど
じわりと毒がまわってきそうな感じ。

ああ、怖かった。


神様のボート (新潮文庫)神様のボート (新潮文庫)
(2002/06/28)
江國 香織

商品詳細を見る
 
スポンサーサイト
テーマ * オススメの本 ジャンル * 本・雑誌

 

 

 

 
ある家族の物語です。
母、父親の違う息子ふたり、その妻、
恋人、それから母の妹。

ばらばらになってしまった関係、
まだ始まったばかりの関係。
それぞれの想いがあてどなく彷徨います。

怖れと、干渉と、執着と、諦めと、
愛情と、憎しみと。

物語の途中から途中までを読んだような、
落着点のない、ひどく宙ぶらりんな気分
になるのですが、そこがかえって
著者の筆力を感じさせます。

何かが著しく解決するわけでもなく
誰かの夢が叶うわけでもない。
あけすけなくらい、脚色なしの日常。

仕事で成功を収めなくてはならない、
家族皆で笑っていなくてはならない、
何かに到達しなければならない。

世間的な幸せのモデルとして提示されて
いるもの。

それを目指すも目指さないも本人の自由で
ひとのことは放っておけばいい。

みんな自分の持つ鉛をうまく飼い馴らし
ながら生きていく。
急にごとりと動き出さないように、
今日も、明日も。

音のない長回しの映像をじっと見ている
ような、
でも全然飽きさせない一冊です。



ちょうちんそでちょうちんそで
(2013/01/31)
江國 香織

商品詳細を見る
 
テーマ * オススメの本 ジャンル * 本・雑誌

 

 

 

 
扇にのせて差し出された、白い夕顔の花。

江國香織が現代語で書いた
源氏物語の「夕顔」です。

有名な物語なので、
あらすじは省かせていただいて。

光の君は清らかで美しく、罪がない。
(ほとんど誘拐に近いことをしても)
夕顔はつるりと無垢で、ミステリアス。
六条御息所は気高く優雅で
悲しいくらい懸想に身をやつす。

端正な文章からは
情景がふっと浮かび上がってきます。
焚きしめた香のように。

夕顔の花がのせられた扇からは
よい香りがして、
文がしたためられていた。

素敵です。
淡く連ねた言葉で、
その向こう側にある気持ちを匂わせる。

夕顔は、源氏物語のなかで
特に印象深いもののひとつです。

よく有名な曲を様々なアーティストが
カバーするというのがありますが、
物語でそのような出会いがあると嬉しい。

5人くらいの作家が書いた夕顔が
一冊に綴じられている本があったら
すごく贅沢、と思うのです。



犬とハモニカ犬とハモニカ
(2012/09/28)
江國 香織

商品詳細を見る
 
テーマ * オススメの本 ジャンル * 本・雑誌

 

 

 

 
ねじ、というバーに行けば
ちょっと渋めのマスター、勲さんや
ひとクセある派手な大人たちに会える。

狭いカウンター席。
くっきりと主張する音楽。
夜という生き物。架空の場所。

私はねじで働いている。
10年一緒に暮らしている智也は
働かなくなってずいぶん経つ。

ある夜、ねじに来たお客さんは
お店に不似合いな、ひっそりと地味な男で
私は変にざわざわする。全く不用意に。

私は智也が働かないことを責めきれない。
智也が悲しそうだと私も悲しくなるから。

私はその男と一緒に過ごす夜を夢想する。

明け方、店からの帰り道。
公園から、トランペットの旋律が
聴こえてくる。
暴力的なまでに巧みな、りんご追分。

私の心が決壊する。

もし自分の人生が
おかしな方向に向かっているとしたら
誰のせいでもなく自分がしたことだ。
わかってる。けれど、ここから動けない。

そういう時に聴く、りんご追分は
きっと沁みるだろうな。



泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)
(2005/02/18)
江國 香織

商品詳細を見る
 

 

 

 

 
この物語には、
奇妙なかたちの家族が描かれています。

二月の、
灰色とうす茶色がまざった冷たい空気の中
私と息子の樹は手をつなぎ、動物園に行きます。

じっくりと、順路通りに
しまうまやゴリラやフラミンゴを眺める。
合間に回想されるのは、
夫との楽しかった思い出のシーン。

お弁当を食べたあと携帯が鳴る。
今どこ?一緒に夕食でもどうかな、と夫から。
私も樹も、飛び上がるほど喜んで、
白熊の前で待ち合わせをする。

夫はどうしても「家庭の生活」になじめず、
一緒に暮らすことや樹と接することに戸惑う。
次第に友人の家に外泊することが増え、
ついにはひとりでアパートを借りてしまう。

待ち合わせ場所に現れた夫と
三人で楽しく動物園をみてまわる。
その圧倒的な幸福。

おかしいよ、あんたたちのその関係
周りにはいわれるけれど
たとえ最愛の夫と一緒に暮らせなくても
どうにかしてやっていかなくてはならない。
私はそう思うのです。

私たちは家族なんだ、という気持ちと
私たちは家族なのだろうか、という気持ちが
ゆらゆらする。

動物園にビターなエピソードを
かけあわせてできる
茫漠とした空気感がすごくいい。

幼い樹の赤らんだ頬、ぽってりした唇。

ヨーロッパのショートフィルムを
観ているようです。



泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)
(2005/02/18)
江國 香織

商品詳細を見る
 
テーマ * オススメの本 ジャンル * 本・雑誌

 

 

*Template By-MoMo.ka* Copyright © 2017 涼虫の読書案内, all rights reserved.

涼虫(すずむし)

Author:涼虫(すずむし)

本の虫、涼虫が読書案内いたします。

本がお好きな方、読みたい本を探している
方のお役にたてると嬉しいです。
ときどき自由に書いてしまうことも
ありますが、どうぞおつきあいください。
リンクについてはご一報いただけると
幸いです。また、すべての画像、文章、
データの複製・転載をお断りいたします。

ブログランキング・にほんブログ村へ

\ランキングに参加しています/

あ行の作家 (62)
明川哲也 (1)
朝倉かすみ (1)
安部公房 (1)
伊坂幸太郎 (5)
石田千 (1)
伊藤たかみ (1)
絲山秋子 (9)
井上荒野 (9)
茨木のり子 (1)
江國香織 (14)
円城塔 (2)
小川洋子 (5)
小山田浩子 (5)
恩田陸 (7)
か行の作家 (35)
角田光代 (7)
金原ひとみ (1)
川上弘美 (14)
川上未映子 (5)
岸本佐知子 (2)
北村薫 (1)
木村紅美 (1)
窪美澄 (1)
栗田有起 (1)
小池昌代 (2)
さ行の作家 (11)
斎藤隆介 (1)
桜庭一樹 (5)
柴崎友香 (1)
島田雅彦 (2)
島本理生 (2)
白石一文 (3)
瀬戸内寂聴 (1)
た行の作家 (4)
谷川俊太郎 (2)
津村記久子 (2)
な行の作家 (18)
中上健次 (1)
中島らも (1)
中村文則 (2)
長嶋有 (8)
梨木香歩 (6)
西加奈子 (3)
能町みね子 (2)
は行の作家 (14)
林真理子 (1)
東直子 (3)
東野圭吾 (1)
平野啓一郎 (1)
藤野可織 (4)
辺見庸 (1)
穂村弘 (2)
堀江敏幸 (1)
ま行の作家 (57)
益田ミリ (1)
枡野浩一 (1)
町田康 (4)
三浦しをん (6)
みうらじゅん (1)
宮本輝 (2)
村上春樹 (30)
村上龍 (8)
本谷有希子 (1)
森絵都 (2)
森博嗣 (1)
や行の作家 (23)
山田詠美 (2)
山崎ナオコーラ (1)
山本文緒 (1)
吉田篤弘 (1)
柳美里 (1)
吉田修一 (1)
よしもとばなな (16)
未分類 (10)
ビジネス書 (20)
エッセイ・コラム (22)
コミック (7)
雑誌 (4)
涼虫の… (69)
コトノハ・リサーチ (36)
気分で、短編。 (19)
書店をめぐる (14)
読書について (50)
深海で待ち合わせ (5)
徒然 (128)
虹を渡る (17)
活字にしたい映画 (1)
スターバックスにて (12)
箱のなか★ (9)

名前:
メール:
件名:
本文:

このブログをリンクに追加する

この人とブロともになる

QR

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。