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フリーランスの校閲者として日々を
淡々と過ごす冬子が、物理学の高校教師と
不器用に恋に落ちていく、ひそやかな
時間の経過が描かれています。

冬子は人と接することや、気持ちを言葉に
変換するのが苦手な引きこもりがちな
タイプで、普通の恋愛を経験しないまま
大人になってしまいます。

そんな女性がどんなふうに、誰かに恋を
していくのかを、一緒に体感するかの
ように読んでいました。

冬子はカルチャースクールに行くために
出かける前にたくさんビールをのんで、
ステンレスボトルに日本酒をつめて
トートバックに忍ばせる。
彼女は受付までの間に緊張しすぎて
具合が悪くなり、結局講座を受けることは
できないのだけれど、そこで三束さんに
出会う。

冬子は体内に恋という器を持たない。
だから三束さんとの間に何が起こって
いるのかがわからない。
自分の感情の中に嵐のようなものが
生まれるのを確認する。
それが日々大きくなっていくのを
おっかなびっくり抱えながら過ごす…

冬子との対比のように、聖という美人の
仕事仲間が登場します。
恋愛を用途別にこなし、世間の流れに抗い
自分の道は自分で切り開くのが信条である
彼女は一見キラキラしているけれど
なんだか哀しく思えて仕方がなかった
のです。

それは、不器用でなにひとつ言葉を自在に
操ることができない冬子の胸の奥に広がる
果てしない銀河のような情景を
ずっと感じていたからかもしれません。

私は彼女をずっと見ていたかったのです。
生まれたてのつやつやと光る若葉や
夜空から静かに舞い降りる雪の結晶、
そういうものとすごく似ていたから。

こんなに透明できれいなものをみたのは
久しぶりのことだったから。


すべて真夜中の恋人たちすべて真夜中の恋人たち
(2011/10/13)
川上 未映子

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ある小説家が亡くなったというニュースを
読んだ主人公の私は、バイトを休んだ。

人々の心に残る多くの作品を残した
とても人気のある小説家だった。
雨宮くんが教えてくれた。高校生の頃だ。

私たちはよく、あまり手入れされていない
ただ広いだけのひなびた植物園を歩いた。
たくさんの話をした。
枯れた葉や、赤ピンクの花を見ながら。

もし、その小説家が亡くなったら
そのとき僕たちがどこにいても、
植物園の前で会おう。彼はそう言った。

もし彼が14年前の約束を憶えていたら。
私は日曜日を待って、電車に乗り
植物園に向かう…

あてどない場所にいるような
さみしい、よりも少し手前の気持ち。
その雲の中にすっぽり入ってしまって
しばらくぼんやりしてしまいました。

恋愛においての約束はロマンチックだけど
とても難しい。

約束はそのときの自分がしたもので、
そのときの自分がもういなければ
無効なのか、
それとも約束だけが生きるのか。

もし私が約束するなら、
待ち合わせは月にするけれど。
どこまでも非現実的に、夜の夢みたいに。

戯言には戯言にふさわしい質量で。



愛の夢とか愛の夢とか
(2013/03/29)
川上 未映子

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白い花を、花屋で買ったことがきっかけで
専業主婦である主人公の私は
花や植物を育てるようになります。

一戸建ての玄関ポーチを彩るのは
バラ、アイビー、ワイルドストロベリー、
それからチョコレートコスモス。

時折、どこからかピアノが聴こえてくる。

ある日、植物の手入れをしていると
隣の立派な家に住む七十代と思しき
白髪の老婦人から声をかけられ、
ピアノの音が彼女のものだと知ります。

老婦人にお茶に招かれ、マカロンと
さくらんぼを手土産に訪問した私は
彼女の弾くピアノ、
リストの「愛の夢」を聴きます。

何度もつまづきながら弾き終えた婦人は、
私に依頼するのです。
この曲が完成するまで週に二度、そばで
ピアノを弾くのを聴いていてほしい…

老婦人、テリーと、私、ビアンカ。
ここだけで互いを呼び合う名前。
リストの旋律。私の胸の中に立つさざ波。

あきらめを含んだ平穏が、さらさらと
乾いた砂みたいに流れていく。
掴もうとせずにぼんやりと眺めるだけ。
もし掴めばそれは正しく輪郭を持ち
目の前に立ち現れてしまうから。

すべてを曖昧にして何も考えない。
穏やかに日々を生きるということは
そういう要素を多く含んでいるのかも
しれません。

物事はいつも割りきれなくて、胸の内に
余りが残る。

その余りの存在が旋律に乗って聴こえて
くるようで、それは淡くて柔らかくて
奇妙なほど心地いいのです。



愛の夢とか愛の夢とか
(2013/03/29)
川上 未映子

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精神分析学、生物学、文学、哲学…
川上未映子と、第一線で活躍している
六名のゲストとの対話集です。

それぞれの相手と、ぐーっと深いところ
まで潜る。海は違えど、その水深は同じ
という印象です。

歌人の穂村弘と、作家の多和田葉子とは
期待通りのエッジの効いたトーク。

特に興味深かったのは生物学者、福岡伸一
との対話「生物と文学のあいだ」です。

生命とは、DNAを使って自己複製をする
システムであるということ。そして、
生きている=動的な平衡状態を保っている
という定義。

生命体は、たまたまそこに密度が高まって
いる分子のゆるい「淀み」でしかなく
しかもそれは高速で入れ替わっており、
その流れ自体が、生きているということ…

動的平衡という言葉から、川上未映子は
方丈記の「ゆく川の流れは絶えずして、
しかももとの水にあらず」
を思い浮かべたといいます。

個人的には、精神分析学や哲学の対話に
針が振れるのかなと想像していましたが、
意外にも生物学理論に心臓が早鐘を
打ってしまいました。
(そういえば理系男子に弱いのだった)

対話集というのは、ひとりの作家をキーに
様々なジャンルの有識者が持つ思想を
ダイジェストで、ライブ感とともに
受け取れるところがいい。

あなたが惹かれるのは、どの星でしょう。



六つの星星 川上未映子対話集 (文春文庫)六つの星星 川上未映子対話集 (文春文庫)
(2012/09/04)
川上 未映子

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川上未映子の、初のエッセイ集です。

このひとがつけるタイトルが
好きだな、と思っていました。

文体は句読点が少なく、クラシカル。
和のテイストなのに動的で
ある種の流麗さがあります。
なんだか音楽を聴いているみたい。

太宰治が当たり前のように
自分の身近にありすぎて、
好きかどうかずっと気づかなかった、とか。

桜の木のことを擬人的に、
ほとんど身をやつすほど好きで
春になると桜の前で顔をあげられない、とか。

その行きすぎた感じ、
ぐるぐるとした迷路のような思考。
奔放さと不器用さ。

このひと、
きっとかわいいひとなんじゃないかな。

川上未映子を
少しだけ知ることができる、一冊です。



世界クッキー世界クッキー
(2009/11/13)
川上 未映子

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