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この世に想いを残して去った人々が
ある無機物にとりつくことを係に認められ
そこからもう一度現世をみつめていく。

物語はすでに無機物となった主人公の
視点で語られていきます。

とりつくしまに何を選ぶか。
それはひとによって実に様々です。

恒久的に大事なひとの身近にあるもの、
ある季節にだけ使われるもの、
一度きりでなくなってしまうもの。

白檀、という物語で桃子が選んだ
とりつくしまは、何十年も前に書家の
浜先生に差し上げた中国の扇子でした。

16歳のときに深い青の絣を着た先生に
出会ってから、どうしてもまた会いたくて
懸命に書の修行を積み、大学を中退し、
先生の元に弟子入りした桃子。

けれど先生の奥様のことも大好きで、
恋心を固く胸に秘めたまま去った桃子。

誰もが穏やかで慎み深く、
淡く静かに日々は続いてゆくけれど
想いは空気に滲み出る。
白檀の香りがふっと漂うように。

先生は夏になると私をそっとひらく。
そして私は先生のためにやわらかな風を
おこす。

なんと艶かしい。

もし私がとりつくしまを選べるなら
ロージンという白い粉のように
一度きりのものにするかもしれません。

大事なひとときちんとお別れをするために
その機会を使うと思うのです。



とりつくしま (ちくま文庫)とりつくしま (ちくま文庫)
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もし役割が先にあって名前が後だったら。

天に住む者、地下に住む者、そして地上に
住む者。
この物語の世界では、それぞれの場所で
暮らし始めるたびに、そこでの名前が
与えられます。

たとえば睡蓮の香りで部屋を満たして
訪れるひとを待つ、十五番目の水。
たとえば市長のいつわりの息子、ソルの
いつわりの母、レミ。

主人公の女は記憶がおぼろげです。
役割を担うために、何か強い力にそれを
奪われてしまうから。
彼女の人生は本人の意志を置き去りにして
流転を続けます。

そして、甘い水だけを飲んで生き延びて
いる人々。その成分の秘密。

真っ白な壁の、誰もいない部屋に
いるような感覚に陥ります。
白いテーブルの上の水差しには、
透き通った赤い水で満たされている。
いつでもその水を飲んでいい。
けれど飲んだ瞬間に私は私の名前を
失くしてしまう。

これまで当たり前に存在していた名前を
失くして、誰も自分を呼ばなくなったら
自分が自分だとどうやって認識すれば
よいのでしょう。

無記名の世界は、色のない世界に
似ているように思うのです。



甘い水 (真夜中BOOKS)甘い水 (真夜中BOOKS)
(2010/03/08)
東 直子

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この物語には、一つ屋根の下で暮らす
私、シワスと、イチ、サツキ、ナナの
季節をじんわり感じながらすごす日々が
綴られています。

文筆業のシワスが同居人達と交わす会話は
くすっと笑ってしまうものばかり。

ツイタチって、いつも月曜日じゃないの?
トカゲは、長生きしちゃうからなあ。
椎の実だろ、フライパンで炒って食べた。

そしてシワスが感じる、四季の幸せ。

冬、使い慣れたやわらかい羽毛布団や
毛布にくるまって眠ることの心地よさ。
このまま春まで冬眠できたらいいのに
と考えたり。

初夏、熊野川のほとりを歩き
冷たい水に指先を入れて、
いつかは、こんなきれいな水の一部に
だれもかれもがなるのだ、と思ったり。

生きるということは実は贅沢なことで
花の種が、濃い緑から立ち上る霧が
柔らかい腐葉土が、夜空を低く流れる星が
それを思い出させてくれるのです。

さまよったり、立ち止まったり
ゆるんだり。

心がほわっと温かくなる。
味わい深い一冊です。



ゆずゆずりゆずゆずり
(2009/03/05)
東 直子

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