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芥川賞を受賞した藤野可織が、堀江敏幸と
対談しています。

受賞作である爪と目は、不思議な手触りの
する小説で、独特な二人称で語られる
その文章から立ち上ってくる何か…例えば
匂いのない煙、藍色と灰色がランダムに
混ざった膜のような気配を感じたのですが
その正体はよくわからなかったんです。

それを堀江敏幸が分析していて、
ひとつの曲の中で速度の違う複数の
トラックが流れている。音声が二重で
聞こえてくる感覚…と表現します。
ああ、なるほど、と思いました。
クリアじゃない。

それは藤野可織の意図したところでも
あったようです。

最初からクリアなら手を突っ込む必要は
なくて、よくわからないから覗き込んだり
掴んで手触りを確かめようとする。
クリアじゃないものの魅力はそこだな
と考えていました。

興味深いやりとりをもうひとつ。

藤野作品はホラーと評されることが
多いらしいのですが、本人は怖いものを
書いているつもりはないとのこと。

それに対して堀江敏幸はいいます。
そのものが怖いんじゃなくて、怖いと
感じてしまうこちらのアンテナの歪みが
怖い。

その複雑に歪んだアンテナの先端を
あと一センチ左にねじったら
何が見えるようになるのか。



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猿と鮭はよく干され、職人に太い木綿糸で
縫われる。それは渋柿の壺に漬けられて、
乾くまで天井から吊るされる。

徐々に糸は目立たなくなり、
それは猿と鮭であった頃の記憶を忘れ
人魚の自覚を持ち始める。

完成した干物の人魚たちは桐箱に詰め
られ
遠く西の国へ向けて船で運ばれる。
不老不死の薬として。

干物の人魚たちは波に揺られながら
海に住む生きた人魚に宛てて
音のない歌を歌う。

生きた人魚も干物の人魚も、同じイメージ
を共有している。
生きた人魚たちは歌に共鳴し
大きなひとつの塊となって船を襲う。

海に落ちた干物の人魚に水が染み込む。
やがて螺鈿のような鱗を取り戻し、
つるりと生き返る…

印象的なストーリーです。

一斉に音のない歌を歌う、個体を超えて
ひとつのイメージを共有するなんて
すごくいい。(うっとり)
私もその歌が聴こえるといいのに。

この物語は一匹のできそこないの人魚の
半生が描かれています。
我は誰なのか。人魚は問い続けます。

以前は、意識がすべてを統制していて
それが行動や自我をつくると思って
いたんですよね。

でも、最近はそれだけじゃないなと。
脳や意識が支配できるものは実はわずかで
手足から、行動から影響を受けるものは
意外なほど大きい。

短い物語ですが、とろけるほど美しい
寓話とアイデンティティの作られかたが
ミルフィーユみたいに重なって
読み手の心を贅沢にかき乱すのです。



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僕の彼女のマンションは、駅から
徒歩25分の、暗い道のりの先にある。

彼女のうちに遊びにいくときのお土産は
決まっている。
ニュージーランド産の、500グラムで
13000円もする高級蜂蜜の瓶。
彼女の大のお気に入り。

美しくお洒落で申し分なく素敵な彼女は
いつも紅茶に蜂蜜を垂らして飲む。

道すがら、僕はたまに通り魔をする。
蜂蜜の瓶を、お店の紙袋からコンビニの
ビニール袋に入れ替えて。

だって、逃げろ!と声がするから。
僕は背後から見えない暗殺者に追いかけ
られているから。
捕まるわけにいかない、全速力で逃げる
しかないだろう?

主人公の独白で物語は始まります。
ほどなくしてこの男は狂っているんだと
わかるのですが、
そんなとき、一度深呼吸をします。
固唾を飲んで見守る態勢を整えるために。

男の行動には本人なりの秩序と法則があり
冷静とすら感じるのですが
ひとの頭を殴った蜂蜜の瓶を彼女に贈る、
おとなしく溶け込んだ狂気が逆に怖い。

彼女のことは大事に思っているんだな、
でも他人はただの獲物なんだな、
この境目の断絶は何だろうと考えて
いました。

常識が体に染みていない?
正義や善悪の概念が欠落している?

物語の最後に起こるシーンは
いいようのない金色の気配に満ちていて
強く胸を揺さぶられるのです。

愛と畏怖と後悔と解放と涙と無垢と。



群像 2013年 08月号 [雑誌]群像 2013年 08月号 [雑誌]
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その女は、薄曇りの湿った空気の中
低い空を飛ぶ鳥のようだと思った。
行き先も目的もなく、
乾いた目を時折しばたかせて。

主人公であるわたしと共に暮らしはじめた
あなたは、母が突然亡くなったあと
この家にきた。

わたしはいつしか爪を噛むようになった。
あなたはわたしが爪を噛まないように
ジャンクなお菓子をどんどん与えた。

あなたはわたしに感心がなかった。
優しくも冷たくもなく、ただ一緒にいた。
というより、あなたは何に対しても
感心がなかった。

幼いわたしから見たあなた、父の恋人
である女の姿が、抑揚のない淡々とした
口調で語られます。

その女が無意識のうちに漂わせるのは
ある種の低い周波数。
おそらく虚無という名の。

女の描写からは
活力というものを徐々に抜かれるような
雨に濡れた服が気持ち悪いけれど、
もうどうでもいいや、というような
気持ちにさせられます。

そして、彼女にふらりと引き寄せられる
男たちをみていると、ひとは明るく輝く
ものだけに惹かれるわけではない
ということに改めて気づくのです。

そんな塞がれたような日々の中で
幼いわたしが受ける深い傷、
けれどそれでも伸びていこうとする力が
せつなく映ります。

…読み終わると、いつのまにか自分が
グレーの厚い膜に覆われていることに
気づく。
たまらない閉塞感に、
思わずきつく爪を立てそうになる。



新潮 2013年 04月号 [雑誌]新潮 2013年 04月号 [雑誌]
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