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この物語は大企業のある1フロア、
二つの部署の人間模様が描かれている。
メンバーは皆、ほぼ内勤だ。

いつもの日常、誰かの頭のなか、
暗黙の上下関係、実際に口に出すこと、
心の中で思っていること、
自分が思っている認識すらないこと。

仕事がそつなくできるひともいれば
あまり得意じゃないひともいる。
皆それぞれの立場で、力量でやって
いくしかない。

でもやはりどうしても、そのひとの
ものさしで誰かを測る。

物語の随所に、小さな虫が出てくる。
大根葉にびっしりとはりつく小さな卵、
デスクを這う芋虫、お土産の食用さなぎ…

非常に淡々としていて事件らしい事件も
起こらないので、物語に入り込むまで
時間がかかった。
中盤で落とし穴に落ちるみたいにあっ、
とはまった感覚が来て
頭の中に快がどおっと押し寄せる。

皆、少しずつ、いびつにゆがんでいる。
誰かと共存することによって、それは
さらにぐんにゃりと影響を受ける。
ゆがみの形を本人は知らない。
読み手だけがその形を知ることができる。

職場のチームは生態系という一文が
出てくるのだけど、確かにそうだと思う。
異物混入(新しい人が入る)があると
微妙にヒエラルキーが変わったりする。
バランス能力はすごく大事。
臨機応変に舵を切れるセンスというか。

そして、仕事というのは思ったより
ずっと自分の内面がくっきりと出てくる
ものなんだな、と改めて思う。

私も仕事中、思うことはたくさんある。
時々びっくりするほど残酷なことも。
頭の中で100倍とか1000倍に希釈して
原型をとどめないくらい撹拌している
うちに忘れるとか。
とにかく流す。流しまくる。

この物語は、会社勤めじゃない方だと
めずらしい世界として楽しめると思う。
会社勤めの方には、ある意味ヘビー
かも知れない…


工場工場
(2013/03/29)
小山田 浩子

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主人公の僕は、友人の斉木から浦部が
亡くなったと聞かされる。
彼は半年前に浦部の家を訪れたときの
ことを思い出す。

浦部は親が裕福で、40歳になるが仕事も
せずぶらぶら暮らしていた。
浦部の部屋には幼い妻と生まれて間もない
赤ん坊がいた。
大変な熱帯魚マニアで、部屋の壁際は
びっしりと水槽が置かれ、中でも沢山
飼育されている魚はディスカスだった。

水槽には五ミリもないおたまじゃくしに
似た子ども、たらこのような粒の卵、
縦縞の、乱れたまだらの、水玉模様の
まだ若い個体。

浦部はディスカスの繁殖にかけては
かなりの名人のようで、つがわせ方を
コントロールして観察しているという…

この物語は、遺伝子ヲ繋ゲ、とインプット
されて生まれ落ちてくる、あらゆる個体の
ことが描かれているように思う。
ヒトも魚も同じくくりで、近く遠く。

浦部はさっくりと遺伝子をこの世に残し、
自分は退場する。対して主人公夫婦には
なかなか子が授からない。

人間も遠く遠くからみると水槽の中の
ディスカスと同じだ。
主人公と妻のつがいも、浦部と幼妻の
つがいも、相手を探し求める斉木も。

ヒトは天敵が存在せず、生存自体が過酷
ではない、そして寿命が長いせいなのか
日々のことを接近して見すぎ、色んな
ことに意味づけしすぎ、自分で事態を
ややこしくしているのではないか。
水槽のディスカスを(頭の中で)じっと
見つめながらぼんやり思う。

もっとざっくりシンプルなのがいい。
地球に生まれ落ちた生命体のひとつと
して。生存が第一、目の前のことを
ただ受け入れたり受け流したりしつつ。


工場工場
(2013/03/29)
小山田 浩子

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本日は、第150回芥川賞の発表日です。

Twitterでチェックをしていると、
どんぶらこ、どんぶらこと賞の発表の
ツイートが流れてきます。
芥川賞の受賞は…小山田浩子「穴」!

大きく祝杯をあげました。関係者でも
何でもないけれど、小さなひとりの
ファンとして。

小山田浩子さんの文章は華やかさはあまり
なくて、地味なくらいなんだけれど
このひとにしか連れていけない世界が
あるなあと思うんですよね。
そして、その世界は不思議なことに
無色なんですよね。

作中に出てくる奇妙な黒い動物、
あれを私子どもの頃に見たことがある
ような気がするんです。

けっこう大きくて、あんまり警戒心なくて
ふらーっと歩いているあの感じ。

犬じゃないしキツネでもないし、
なんか見たことない色と形だして
立ち止まって凝視した記憶が…

もし、わけのわからない動物に道端で
会ったことがある方は
この物語を読んでみてほしいなと
思います。

そしてあいつの正体を私に教えてほしい
のです。


穴
(2014/01/31)
小山田 浩子

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夫の転勤で、派遣の仕事を辞めて郊外に
引っ越した私が過ごす、夏の物語です。

新居は、郊外の一戸建て。
夫の実家が持つ借家で敷地内にあります。
多分、義父も義母も義祖父もいいひと。
夫はネット(SNS?)の依存症だけれど
それ以外は特に問題はない。

彼女は見知らぬ土地で専業主婦となり
日がなぼんやりと暮らします。

ある日、義母のおつかいで振込のために
コンビニまで川沿いを歩いていると
見慣れない黒い獣が歩いているのを
見かけます。
気になって後をついていくと、
彼女は川べりの草むらで穴に落ちます。

穴は胸くらいの高さで、しっとりと
心地よく、黒々とした土の匂いがした…

穴に落ちた後の彼女は、奇妙なものを
見るようになります。
なにかが微妙にずれていく感じが
面白いんです。

一人っ子だといっていた夫には
実はニートの兄がいて、母屋の裏手に
ある物置小屋に二十年住んでいる。
お嫁さん、と呼ぶ彼のヒステリックと
幼さが混じった不思議な口調。
獣は気まぐれに現れてはふっと消える。
義祖父は何時間も庭に水を撒く。
庭の土がぐずぐずになっても気づかない。

実はいつも私たちがいる世界は微妙に
補正がされているんだとわかります。
自分の認識も含めて。
できるだけなだらかな直線を描くように。

何かの拍子に、その補正が効かなくなった
瞬間、あらゆる狂いやバランスを
欠いたものが見えてくる。
それはシュールなようにみえて
実のところはリアルなんじゃないかな
と思ったんです。


新潮 2013年 09月号 [雑誌]新潮 2013年 09月号 [雑誌]
(2013/08/07)
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この作家は工場、という小説で話題に
なっていて、気になっていたんです。

主人公は四十を少し過ぎた男。不妊治療中
の同い年の妻と二人暮らしです。

ふとしたきっかけで旧友の斉木と連絡を
取り合うようになり、
新婚で田舎に一戸建てを構えたばかりの
斉木の家に招かれ、妻と遊びに行きます。

斉木の目下の悩みは、古い家を改築した
せいか、屋根裏にいたちが出ること。

斉木の若妻が用意した、甘い味噌仕立ての
猪鍋をつつきながら酒を飲み、
話題は斉木家のいたち駆除の話へ。

ほろ酔いで、どちらかというと聞き役
だった主人公の妻が突然、子供の頃に
自宅に現れたいたちの話を始めて…

今、いたちの写真をみてきました。
ちょっと苦手です。でも、ぐっと臨場感。

作家には文章に魔法をかけて力を持たせる
ひとが多くいますが、
この作家は硬質なコーティングだなと
感じます。
知らないで読んでいたら男の人と勘違い
するかもしれません。

確かで、豊潤な小説という印象です。

なによりいたち駆除という不思議な題目で
ここにあったはずの気持ちを根こそぎ
遠くまで持っていかれたことに驚き、
もう一度頭から読み返してしまいました。

ああ、言いたい。
でもこれは小説の肝の部分。

いたちが自宅に出ないようにする
方法はね…



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