上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 

 

 

 

 
その男は海という字がつく名を持ち、
日本各地を転々とする宝石商だ。
鳥海、大海、古海…出会う女によって
告げられる名は様々だ。

女たちは男に出会い、目もくらむような
幸せを手にしたと信じる。未来に溢れる
ばかりの光をみる。
男がさらりと消えてしまったことに気づく
のは少し後のことだ。

一緒に住むためのマンションの手付金、
婚約指輪の代金。
申し訳ないけど今自分の金が動かせなくて
彼にそういわれて渡したお金とともに。

古海の結婚詐欺には手引きをしている女が
いる。
彼女、るりはカモになりそうな女を
見つけてきては、彼に情報を提供する…

誰の中にも欠落があって、わかりやすい
何か、例えば清廉潔白な愛などでそれは
埋められると期待してしまう。

でも、もっとヒステリックでねじれた形がぴたりとはまることもある。

なかでも古海とるり、古海の妻の初音の
心情は、深い深い洞穴を覗くようだ。
見てはいけないと信号が鳴る。

もくもくと立ち上っていく煙のような、
グレイッシュな感情に全身が取り巻かれ
ていく。
息苦しい、逃れたいと思う。
それなのに、なぜかそこにはかすかな
歓喜がある。
不思議だ。

ひとの心がわかりやすく書き割りで、
簡単に説明がつくもので埋められるなら
どんなにいいだろう、と思う。

欲望はそもそもねじれたものなのだ。


結婚結婚
(2012/03/27)
井上 荒野

商品詳細を見る

 
スポンサーサイト

 

 

 

 
北緯14度にあるセネガルという国に、
あの太鼓を聴きに行きたい。
作家、絲山秋子は二ヶ月の旅に出る。

セネガルは中央アフリカの西側に位置し
フランス語圏。現地語はウォルフ語。
治安が悪いため一人歩きはできず、
ガイドを雇う。
学生時代の留学で習得したフランス語を
辿々しく使いながら、徐々に土地の空気
に馴染むのを感じていく。

このエッセイは、絲山さん特有の低温の
タッチで描かれている。読んでいて心地
がいい。
アフリカの旅行記なのに、静かだ。

疲れてくるとフランス語の発音がうまく
できなくて悔しい、セネ飯は美味しくて
大好きだけれど身体が慣れなくてすぐに
お腹をこわす。いつのまにか思考回路が
フランス語になっていて、変な日本語を
使ってしまう。
いいことばかりではない。

けれど、日々冗談をいいながらガイドと
一緒に歩いたり、道端で煙草を買ったり
大勢でごはんを食べたりするうちに
少しずつ現地に友達が増えていく。
セネガル人は深い愛情に満ちていて
絲山さんの泣きポイントをついてくる。
(もちろん私も一緒に泣く)

彼女が神とあがめるアーティスト、
ドゥドゥ・ンジャエ・ローズの
太鼓演奏を流しながら読んでいた。

セネガルは一度滞在すると、どうしても
帰りたくなる場所らしい。
私も帰りたくなってしまった。
まだ一度も行っていないのに。


北緯14度 セネガルでの2ヵ月 (講談社文庫)北緯14度 セネガルでの2ヵ月 (講談社文庫)
(2013/04/12)
絲山 秋子

商品詳細を見る



 

 

 

 

 
この物語は大企業のある1フロア、
二つの部署の人間模様が描かれている。
メンバーは皆、ほぼ内勤だ。

いつもの日常、誰かの頭のなか、
暗黙の上下関係、実際に口に出すこと、
心の中で思っていること、
自分が思っている認識すらないこと。

仕事がそつなくできるひともいれば
あまり得意じゃないひともいる。
皆それぞれの立場で、力量でやって
いくしかない。

でもやはりどうしても、そのひとの
ものさしで誰かを測る。

物語の随所に、小さな虫が出てくる。
大根葉にびっしりとはりつく小さな卵、
デスクを這う芋虫、お土産の食用さなぎ…

非常に淡々としていて事件らしい事件も
起こらないので、物語に入り込むまで
時間がかかった。
中盤で落とし穴に落ちるみたいにあっ、
とはまった感覚が来て
頭の中に快がどおっと押し寄せる。

皆、少しずつ、いびつにゆがんでいる。
誰かと共存することによって、それは
さらにぐんにゃりと影響を受ける。
ゆがみの形を本人は知らない。
読み手だけがその形を知ることができる。

職場のチームは生態系という一文が
出てくるのだけど、確かにそうだと思う。
異物混入(新しい人が入る)があると
微妙にヒエラルキーが変わったりする。
バランス能力はすごく大事。
臨機応変に舵を切れるセンスというか。

そして、仕事というのは思ったより
ずっと自分の内面がくっきりと出てくる
ものなんだな、と改めて思う。

私も仕事中、思うことはたくさんある。
時々びっくりするほど残酷なことも。
頭の中で100倍とか1000倍に希釈して
原型をとどめないくらい撹拌している
うちに忘れるとか。
とにかく流す。流しまくる。

この物語は、会社勤めじゃない方だと
めずらしい世界として楽しめると思う。
会社勤めの方には、ある意味ヘビー
かも知れない…


工場工場
(2013/03/29)
小山田 浩子

商品詳細を見る


 
テーマ * オススメの本 ジャンル * 本・雑誌

 

 

 

 
主人公の僕は、友人の斉木から浦部が
亡くなったと聞かされる。
彼は半年前に浦部の家を訪れたときの
ことを思い出す。

浦部は親が裕福で、40歳になるが仕事も
せずぶらぶら暮らしていた。
浦部の部屋には幼い妻と生まれて間もない
赤ん坊がいた。
大変な熱帯魚マニアで、部屋の壁際は
びっしりと水槽が置かれ、中でも沢山
飼育されている魚はディスカスだった。

水槽には五ミリもないおたまじゃくしに
似た子ども、たらこのような粒の卵、
縦縞の、乱れたまだらの、水玉模様の
まだ若い個体。

浦部はディスカスの繁殖にかけては
かなりの名人のようで、つがわせ方を
コントロールして観察しているという…

この物語は、遺伝子ヲ繋ゲ、とインプット
されて生まれ落ちてくる、あらゆる個体の
ことが描かれているように思う。
ヒトも魚も同じくくりで、近く遠く。

浦部はさっくりと遺伝子をこの世に残し、
自分は退場する。対して主人公夫婦には
なかなか子が授からない。

人間も遠く遠くからみると水槽の中の
ディスカスと同じだ。
主人公と妻のつがいも、浦部と幼妻の
つがいも、相手を探し求める斉木も。

ヒトは天敵が存在せず、生存自体が過酷
ではない、そして寿命が長いせいなのか
日々のことを接近して見すぎ、色んな
ことに意味づけしすぎ、自分で事態を
ややこしくしているのではないか。
水槽のディスカスを(頭の中で)じっと
見つめながらぼんやり思う。

もっとざっくりシンプルなのがいい。
地球に生まれ落ちた生命体のひとつと
して。生存が第一、目の前のことを
ただ受け入れたり受け流したりしつつ。


工場工場
(2013/03/29)
小山田 浩子

商品詳細を見る


 
テーマ * ブログ ジャンル * ブログ

 

 

 

 
専業主婦の理津子は、結婚十年目の
アラフィフ。五つ歳下の夫、文麿と
小田原のマンションで二人暮らしを
しています。
寝る部屋は四年前から別、食事時には
会話のなさに困って真剣にテレビの
ニュース番組を見入ってしまう。
いわゆる倦怠期です。

理津子は思うのです。
上手く隠しているつもりなのだろうか。
夫はせっせと浮気をしているようだ…

この物語は、一組の夫婦の日々が
妻の視点でコミカルにテンポよく描かれて
います。

いつのまにか夫の一挙一動に無関心と
なってしまった理津子。
特に必要としてないし、焼きもちも
それほど感じない。
あんなに盛り上がって結婚したけれど
十年でこのありさま、これがあと三十年も
続くのって…とのっぺりとした気持ちに
なったりします。

超然としていることが妻というポジション
には似合う、と妙に納得してみたり。

女友達の、独身で自由恋愛を楽しむ
タクシー運転手であるのーちゃんに、
離婚しないの?と尋ねられます。
離婚してもどうしようもないしねぇ
と理津子は答えます。

どうしようもない?
その言葉がひっかかったまま後半を
読み進めていくと、ふたりがどんな関係
なのかがだんだん見えてきます。

いろいろひっくるめてぐるりとねじれて
三回転か四回転してから感じるじわっと
慈しむような気持ち。
耳の下の三角地帯から発する加齢臭も
愛人宅に泊まるための見え透いた嘘も
ふと家を出た自分を探す慌てぶりも
こちらの呼吸にあわせて眠る姿も。

許すも許さないも実は大したことでは
ない。
それは殊勝な妻という意味ではなく
いろんなものを含んだ大きな枠の中での
関係性という意味で。

次々とさまざまな感情が去来して混沌を
成していく。それを日常が綿棒みたいに
薄く薄く伸ばす。

感情が行動をつくり、日常をつくるのだと
ばかり思っていました。
でも、この物語の中では違う。
感情はあぶくのようなもので、どんどん
受け流されていく。

人と人とは別れたりくっついたりするほう
が全然簡単で、そのどちらでもない、
そういうんじゃない関係性をつくっていく
日常の、そして時間の堆積の偉大さを
見たような気がしたのです。


妻の超然 (新潮文庫)妻の超然 (新潮文庫)
(2013/02/28)
絲山 秋子

商品詳細を見る
 
テーマ * オススメの本 ジャンル * 本・雑誌

 

 

*Template By-MoMo.ka* Copyright © 2017 涼虫の読書案内, all rights reserved.

涼虫(すずむし)

Author:涼虫(すずむし)

本の虫、涼虫が読書案内いたします。

本がお好きな方、読みたい本を探している
方のお役にたてると嬉しいです。
ときどき自由に書いてしまうことも
ありますが、どうぞおつきあいください。
リンクについてはご一報いただけると
幸いです。また、すべての画像、文章、
データの複製・転載をお断りいたします。

ブログランキング・にほんブログ村へ

\ランキングに参加しています/

あ行の作家 (62)
明川哲也 (1)
朝倉かすみ (1)
安部公房 (1)
伊坂幸太郎 (5)
石田千 (1)
伊藤たかみ (1)
絲山秋子 (9)
井上荒野 (9)
茨木のり子 (1)
江國香織 (14)
円城塔 (2)
小川洋子 (5)
小山田浩子 (5)
恩田陸 (7)
か行の作家 (35)
角田光代 (7)
金原ひとみ (1)
川上弘美 (14)
川上未映子 (5)
岸本佐知子 (2)
北村薫 (1)
木村紅美 (1)
窪美澄 (1)
栗田有起 (1)
小池昌代 (2)
さ行の作家 (11)
斎藤隆介 (1)
桜庭一樹 (5)
柴崎友香 (1)
島田雅彦 (2)
島本理生 (2)
白石一文 (3)
瀬戸内寂聴 (1)
た行の作家 (4)
谷川俊太郎 (2)
津村記久子 (2)
な行の作家 (18)
中上健次 (1)
中島らも (1)
中村文則 (2)
長嶋有 (8)
梨木香歩 (6)
西加奈子 (3)
能町みね子 (2)
は行の作家 (14)
林真理子 (1)
東直子 (3)
東野圭吾 (1)
平野啓一郎 (1)
藤野可織 (4)
辺見庸 (1)
穂村弘 (2)
堀江敏幸 (1)
ま行の作家 (57)
益田ミリ (1)
枡野浩一 (1)
町田康 (4)
三浦しをん (6)
みうらじゅん (1)
宮本輝 (2)
村上春樹 (30)
村上龍 (8)
本谷有希子 (1)
森絵都 (2)
森博嗣 (1)
や行の作家 (23)
山田詠美 (2)
山崎ナオコーラ (1)
山本文緒 (1)
吉田篤弘 (1)
柳美里 (1)
吉田修一 (1)
よしもとばなな (16)
未分類 (10)
ビジネス書 (20)
エッセイ・コラム (22)
コミック (7)
雑誌 (4)
涼虫の… (69)
コトノハ・リサーチ (36)
気分で、短編。 (19)
書店をめぐる (14)
読書について (50)
深海で待ち合わせ (5)
徒然 (128)
虹を渡る (17)
活字にしたい映画 (1)
スターバックスにて (12)
箱のなか★ (9)

名前:
メール:
件名:
本文:

このブログをリンクに追加する

この人とブロともになる

QR

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。