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女はアオという男の子供を産み落とす、
そこから物語は始まる。

女の意識は子育てをする現在と妊婦だった
頃とを前後する。
アオが産まれる前、まだ腹の中にいた頃は
女は彼をアカシという名で読んでいた。

アカシは自分の一部であり、乳だけを
飲んでいるアオは自分の分離体で成分は
同じである。けれどアオは次第に成長し
アオオリジナルとなっていく。
自分とは別の生き物になっていく。

女の独白で綴られてゆく物語はひどく
艶かしく、とろけるような愛に満ち、
ときに残酷だ。

人間である前に女という生き物で、
そしてどうぶつであるということ。

理性だけでは命は繋いでゆけない、
もっと激しい本能につき動かされなければ
と思わせられる。

女が妊婦の頃、頭がどんどんぼんやりと
してきて、なにも考えられなくなって、
ただただしあわせだという時期のことが
描かれている。

アカシのせいで私はしあわせになって
しまった、しあわせの実体はないのに。

それを読んだときにどきっとした。

女は頭で理解してしあわせを認識している
のではなく、もっとフィジカルで理由は
曖昧で、反応に近いものかもしれないと。
どうぶつとしてのしあわせ。
遺伝子にはじめから組み込まれた。

想像していたら、なんだかすごくうっとり
してしまった。

妊娠した瞬間に今まで好きで好きで好きで
たまらなかった男への気持ちが拭い去った
ように消える、
というのは少し怖いなと思うけれど。


なめらかで熱くて甘苦しくてなめらかで熱くて甘苦しくて
(2013/02)
川上 弘美

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私は私たちと暮らし、そして大人になると
旅に出て、私以外のひとたちが住む町で
暮らす。
そしていつか迎えにくる私と交代する。

この物語に出てくる私はひとりではない。
私ばかりが暮らす町には、私たちを育てる
ための母たちが何人も代わる代わる
やってくる。

ひとが在る、ということの前提が違い
すぎるこの世界に、ひたひたと身を沈める
ように読んでいった。
真っ白な無の中に一滴ぽとりと悲しみを
落として、それがあてもなく広がって
いくのを見ているような気持ちになる。
どうしてかはわからない。

私がひとりだけ強く愛した大きな母が
焼いてくれたチキンパイ。別れの夜更けに
一緒に見た水仙の記憶。
年若い姿をした長い髪の私と共に暮らす
短くも穏やかな日々。

自分という輪郭を持たないまま生きる
私から時折感じる、身の内から突き上げて
くるような誰かで在りたいという気持ち。

その欲望がひとの原点なのかもしれない。
すべてが始まるための。

この物語には、以前、のことが描かれて
いるように思う。

いま自分が在ることが当たり前なこの世界
では気づくことのできない、けれど
古い古い記憶として遺伝子のどこかに
刻まれているはずの。


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ニシノユキヒコが映画になったので
観てきました。
まんまと私も恋に落ちてまいりました。

あの男、竹野内豊演じるニシノユキヒコに
キュンとこない女はいるのでしょうか。
あーすごい、あーこれは抗えない、と
心の中でぶつぶつ呟きながら観てました。

モテる男は、マメでうんうんと話を聞いて
くれて断らない、キュートでつかみどころ
がなくて、なにより距離の取り方がいい。

女優陣も豪華で美女ぞろいです。
「おやすみ」でニシノと社内恋愛する
上司のマナミに尾野真千子、
「パフェー」でニシノと道ならぬ恋に
落ちる人妻の夏美に麻生久美子、
「通天閣」で親友同士の昴とタマに
成海璃子と木村文乃。

一連の恋愛騒動を観ていて思ったこと。

不倫ってエネルギーの無駄な消費だわ
まずありえないし
社内恋愛は楽しい時期はいいだろうけど
別れたあと最悪だから無理
友達の彼氏を好きになるってどうなのよ、
どっち大事かって友達でしょう…

でも、相手がニシノユキヒコなら?
…しょうがないのかもしれない。

ニシノ特別枠というものが女の心の中
にはあるのです。きっと。

けれど、女たちは途中で気づきます。
ニシノは誰のものにもならないと。
この男は誰のことも好きになることが
できないのだと。

実は一番きついのは彼なのかもしれない。
どんなにモテても、幸せにはなれないの
だから。

うまくいかないよね…


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川上 弘美

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ぞうげ色で、あんがいひんやりしている。
とげとげのない金平糖のような形。
てのひらに握りこめるくらい。

きぬさんの中にある「女」というもの。

衣世(きぬよ)さんはその昔、
恋人だった彼の弟、丹二さんと
相思相愛になってしまいます。

ふたりの関係はすぐに気づかれて
衣世さんは彼に詫び、別れてほしいと
いいます。弟とも二度と会わないなら、
というのが承諾の条件でした。
その後一年経たぬうちに、彼は
釣りの事故で亡くなってしまうのです。

毎年五月、衣世さんは京都まで彼の
お墓参りにいきます。
丹二さんと会うのはそのときだけ。
夕暮れまでの間、お茶を飲み、
淡々と哲学の道を散歩をする。
自分が「女」ということを上手に忘れて。

今年は17回忌だよ、丹二さんはいう…

時間が痛みを消すこと許可しないふたり。
でも、そこには確かに縁があって
消し込み不能なくらい太い糸だったら。

すべての許可は、自分の中にあるもの
なんだなと思いました。
誰かを好きになるという許可。
誰かと共に幸せになるという許可。

以前、どこかのカフェで読んで涙ぐみ、
ずっと忘れられなかったのですが
今日また偶然巡り会って。

大人の、辛い恋を摂取したい方に
そっと両手で差し出したい物語です。



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ある暮れの一日を描いた物語です。

いつもより少し時間とれるかな。
一人暮らしの弟が不在するので、
部屋の換気を頼まれて。

トキタさんに誘われて、
少し緊張しながら私は頷きます。
いつもは同じ曜日、同じ時間の
ほんの短い逢瀬だったから。

二人は見知らぬ駅で待ち合わせます。
普段よりたくさんの嘘をついて。
お互いに家庭のある身です。

スーパーで買い物をし、
お醤油味の鴨鍋でワインを飲みます。

君、思ったより料理が上手だね
お料理で釣ろうとしてるんだ

普段と違う場所、くつろいだ空気。
鍋から上がる湯気、水菜のさみどり色。
ぽろりとこぼれ落ちる言葉。

いつもこんな風にしてたいね

二人は泣きながら抱き合って
でも笑うのです。

色んなことを強く望まないように
していたことも、
細心の注意を払って、言葉に重みを
のせないようにしていたことも、
本当はずっと一緒にいたいことも、
お互いにぜんぶわかってる。

恋というのは
どうしてタイミングを選ばず
訪れるのでしょう。

どうかふたりが150年生きて、
一緒にいられる日が来ますように。



おめでとう (新潮文庫)おめでとう (新潮文庫)
(2003/06)
川上 弘美

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