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紙の月、映画を観る。

静かで美しく、そして狂おしい時間の
経過が描かれていた。

夫との平凡で淡々とした日々を送る主婦の
梨花は、わかば銀行で外回りの営業として
働き始める。

彼女は重要顧客の孫である大学生の平林
光太と出会い、鮮やかな色付きの世界に
ざばんと飛び込む。
罪の意識も、過去も未来も全部振り切って。

ここから出たいと強く願って、いざ出て
みたけれど。

退屈でくすんだグレーの本物と、キラキラ
したシャンパンみたいな偽物ならどっちが
いいのだろう、と思う。
今この瞬間に確かな幸福が感じられる、
それは本当に嘘なのだろうか。
いずれにしても終わりは等しく訪れるのだ。

梨花が手にしているもの、手放したもの。
スクリーンでずっとそれを追っていると
きつくてたまらない。
それでもどうしてか逃げ切ってほしい、
と祈るような気持ちで観ていた。
彼女は私の自由も一緒に抱えて逃げて
くれているような気がしたのだ。

この物語は誰かがみた、多くのひとがみた
夢だ、そう思った。

梨花役である宮沢りえは、どんどんきれい
になっていった。
身なりにお金をかけたからだけではない、
中身が、彼女を形作る成分が、そっくり
変わっていくのを感じた。
終盤の彼女は美しい豹のようだった。
しなやかで妖艶で、全身から生気を発して
いた。

彼女が最後に手にしたものは何だったの
だろう。


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紙の月紙の月
(2012/03/15)
角田 光代

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女はアオという男の子供を産み落とす、
そこから物語は始まる。

女の意識は子育てをする現在と妊婦だった
頃とを前後する。
アオが産まれる前、まだ腹の中にいた頃は
女は彼をアカシという名で読んでいた。

アカシは自分の一部であり、乳だけを
飲んでいるアオは自分の分離体で成分は
同じである。けれどアオは次第に成長し
アオオリジナルとなっていく。
自分とは別の生き物になっていく。

女の独白で綴られてゆく物語はひどく
艶かしく、とろけるような愛に満ち、
ときに残酷だ。

人間である前に女という生き物で、
そしてどうぶつであるということ。

理性だけでは命は繋いでゆけない、
もっと激しい本能につき動かされなければ
と思わせられる。

女が妊婦の頃、頭がどんどんぼんやりと
してきて、なにも考えられなくなって、
ただただしあわせだという時期のことが
描かれている。

アカシのせいで私はしあわせになって
しまった、しあわせの実体はないのに。

それを読んだときにどきっとした。

女は頭で理解してしあわせを認識している
のではなく、もっとフィジカルで理由は
曖昧で、反応に近いものかもしれないと。
どうぶつとしてのしあわせ。
遺伝子にはじめから組み込まれた。

想像していたら、なんだかすごくうっとり
してしまった。

妊娠した瞬間に今まで好きで好きで好きで
たまらなかった男への気持ちが拭い去った
ように消える、
というのは少し怖いなと思うけれど。


なめらかで熱くて甘苦しくてなめらかで熱くて甘苦しくて
(2013/02)
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夫と二人暮らし、穏やかな日々を送る
美津紀は、ある昼下がりに立ち寄った
書店で「世界の神さま一覧」という本を
見つけて、何気なく手にとる。

イエスや仏陀などの有名な神様と並んで
「清濁併せのむ神」という見出しで
紹介されている神さまに、美津紀は
目を奪われる。

スリランカのカダラガマ神殿に奉られて
いるその神さまは、良き願いだけでなく
悪しき願いも叶えてくれる。

美津紀はその神さまのことが頭から
離れなくなる。スリランカのガイドブック
を買い、夫にはじめて嘘をつき、
スリランカへひとり旅立つ。

私は呼ばれているんだ、悪しき願いを
かけたいわけじゃない、と何度も自分に
言い聞かせながら。

バスを乗り継ぎ神殿に着き、本殿に入ると
中央には布地が張られ、派手なポップ
アートのような神様が描かれている。
大音量で鉦と笛と太鼓の演奏が始まり、
神官たちが一列に入ってくる。
祈祷が始まる…

彼女にはどうしても祈りたいことがある。
神殿のすさまじい熱気の中で、彼女が
自分の奥底にある深い闇に向き合う姿は
なにかとても厳しい修行のようで
ひとときたりとも目が離せなかった。

すべての色彩が濃く、熱気をはらみ、
強すぎる感情の波に当てられて
読み終えた後、湯あたりのような感覚に
陥った。

さっきまで私もその本殿の前にいたような
気がする。鐘の音が頭にまだ響いている。
そして思う。
神さまがひとを試すんじゃない、
神さまを前にしてひとは自分を試すの
だろうなと。
あぁ…。


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私は私たちと暮らし、そして大人になると
旅に出て、私以外のひとたちが住む町で
暮らす。
そしていつか迎えにくる私と交代する。

この物語に出てくる私はひとりではない。
私ばかりが暮らす町には、私たちを育てる
ための母たちが何人も代わる代わる
やってくる。

ひとが在る、ということの前提が違い
すぎるこの世界に、ひたひたと身を沈める
ように読んでいった。
真っ白な無の中に一滴ぽとりと悲しみを
落として、それがあてもなく広がって
いくのを見ているような気持ちになる。
どうしてかはわからない。

私がひとりだけ強く愛した大きな母が
焼いてくれたチキンパイ。別れの夜更けに
一緒に見た水仙の記憶。
年若い姿をした長い髪の私と共に暮らす
短くも穏やかな日々。

自分という輪郭を持たないまま生きる
私から時折感じる、身の内から突き上げて
くるような誰かで在りたいという気持ち。

その欲望がひとの原点なのかもしれない。
すべてが始まるための。

この物語には、以前、のことが描かれて
いるように思う。

いま自分が在ることが当たり前なこの世界
では気づくことのできない、けれど
古い古い記憶として遺伝子のどこかに
刻まれているはずの。


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学生時代から恋人同士の和歌と仙太郎。

一風変わったイラストを見出され、
大学在学中から幾つもの仕事が舞い込む
ようになった仙太郎を眩しいような気持ち
で見つめ、はやく結婚したい、彼を
サポートしたいと胸のうちで願う和歌。

和歌は自分にはやりたい事がない、と
うすぼんやりした気持ちで就職する。
あるとき祖母が物書きを志していたことを
知り、彼女が師事していた作家の私小説を
読んでいくうちに、和歌の心の中に
何かが生まれていく。

共に暮らすようになっていた仙太郎の
後押しもあり、和歌は小説家への道を
歩み始める…

才能はマグマのようなもので、全てを
飲み込んでしまうのだな、と思う。

仙太郎の才能が枯渇し、和歌のマグマが
沸騰する。
それは同じタイミングだった。

生活も家事もすべてを振り捨てて、
妊婦であることよりも書くことに没頭する
和歌を冷ややかに見つめる仙太郎。

やがて仙太郎は渾身の力で和歌を傷つける
のだけど、彼女への失望だけでなく
自分への失望までを乗っけて責める姿に、
うわぁ、男のプライドを粉砕すると
こんなふうになっちゃうんだね…と
引きながら眺めていた。

クリエイター同士の夫婦とか恋人同士って
どうやってバランスとってるのかな
と想像した。
誰が生活の部分を担うのだろう、と。

和歌には書き続けてほしいと思う。
別に女の幸せにこだわらなくても、
変人だとしても、思うままで
いいではないか。

その途方もなく熱いマグマとともに在れ。


私のなかの彼女私のなかの彼女
(2013/11/29)
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