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この小説は映画化できないだろうなと
思っていた。
映画化されると知ってから、すぐに
キャストを確認した。どきどきした。

封切り直後に映画を観に行った。

冒頭、真冬の海の中から流氷によじ登り
うっすらと笑う少女の表情をみたとき
ぞっとして、手で口を覆った。
これからとんでもないものを観ようと
しているのではないかと思った。

父と娘は、血と罪とで繋がっていた。
そこにはあらゆる濃密な感情が
渦巻いていた。

誰かが誰かの神様になってしまうと
いう構図を見てしまった。
なにもかも一つはまずいよ…
親も子も男も女もすべて一緒くた
だなんて。

最後までその関係性に翻弄されて
頭の中に変な熱がこもったまま
ぐったりとして映画館を出た。

とにかく人のたくさんいるにぎやかな
場所で体勢を立て直そうと思った。
赤いソファーのあるカフェに入り、
席についてジンジャーエールを頼んだ。
テーブルには一輪、花が生けてあった。

それはさっきまで観ていたあの女に
よく似ていた。
逃れられないのだな、と思った。


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古い歴史を持つ山の上ホテル。

赤い鉄砲薔薇を生けた大きな花瓶の前で
ホテルマンの桜里は、新進気鋭の若き
小説家、清香と出会います。

透きとおるような肌、ほっそりした体躯、
女と見紛うほどの中性的な美貌。

ふざけて鉄砲薔薇をくわえる清香を
眺めながら、桜里は何かを思い出しそうに
なります。

遠い昔、大陸から日本の中国地方に
たどり着いたある一族のこと。
三十年前の、ホテルの一室で見た出来事…

短い物語で、伏線も少なめなので種明かし
すると、清香は吸血一族の末裔なのです。

ひとの血を吸いたい、というのはどんな
感覚なのか、と想像します。
お酒や薬の持つ絶対的欠乏に似ているの
かもしれません。
血を吸うときだけが生きているときで
あとは全部亡霊みたいなもの、のような。

読み進めていくうちに、ゆらりと清香に
魅せられて、頭がぼうっと痺れたように
なり、すっかり自由を奪われてしまう。
いや、そうではなく自ら差し出したのか…

物語の最後には鮮烈な展開が待ち受けて
います。

鉄砲薔薇の花びらが散る。
闇と真紅と、すべてをかき消す雨音と。



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柴崎友香の書く文章は水のようです。

当たり前のような日々が続き、
さざ波のような感情が行き交います。
その中に、きらきらと光る雫や
淡いグレーの澱みが確かにあって
胸の中に残るのです。水彩画みたいに。

昨日行ったライブで難聴気味になった
主人公の私が、彼氏の友達の彼女で
七つ年下のみーこと、何となく過ごす
夏の終わりの午後。

縁日に行こう。

風をきって自転車で坂道を降りるときの
流れていく景色。
白のテントで作られた急ごしらえの店、
ブルーシートの上に並ぶ陶器や着物。

みーこがきれい、と手に取ったのは
薄緑色の気泡が入ったガラスの器でした。
買ってあげようか?私がいうと、
いらない、
どこかにあるって知ってるだけでいいから
と、みーこは答えるのです。

ああ、わかるなあ、この感じ。
きれいなものって手に入れたくない
もののほうが多い。

縁日からの帰り道、ある再会によって
主人公の脳裏に蘇る、過去の奇妙な体験。

そこからは、潮の香りがする場所まで
身体ごとあっという間にさらわれて
しまいます…



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北の外れの岬、一羽の大鷲が大空を舞う。

大鷲は、岬の枯れ松の頂に巣を持ち
何十年もたった独りで生きてきました。
孤独と自由を誇りに。

冬の始まり、大鷲は北へ向かう白鳥の
群れの中から一羽をしとめます。

真っ白な長い首、陽に透ける柔毛。

巣に帰った大鷲は、自分の爪がつけた
白鳥の傷跡を汐気のある海藻でふさぎ、
巣に柔らかい草を敷きつめます。

美しくて弱いものに優しくするというのは
なんと甘美で、喜ばしいことなのだろう。

それから大鷲は、白鳥を守り慈しむために
獲物を捕り、空を舞うようになります。
やがて白鳥は大鷲の想いを受け止めます。

二羽は結婚し、長く厳しい冬を迎えます。
巣の中の、白鳥の柔らかく確かな温もり。
大鷲はこれまで味わったことのない幸福が
胸を満たすのを感じるのです。

そして、春がやってくる…

孤独がほどけていく瞬間にじわりと
温かくなる心の隙間。
自分の淋しさの輪郭を知るということ。
誰かの温もりを感じながら眠るときの
骨がとろけるような甘さ。

それらが一斉に、艶かしくつやつや光る
粒子となって身体にしみてくるようです。

白鳥は長い首を青空に差しのべる。
何かにつき動かされるように。

この物語には、恋の全部があります。





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仕事を無くした男と女がゆらゆらと
都心を彷徨っています。

男は失業してから定職につくことなく
その日暮らし。
女は男に不満こそあれ、離れがたく。

歌舞伎町のホテル、千葉にある女の実家、
中野の知人の家を二人は転々とします。
まるで浮き草のように。

時間つぶしに昼間の町をぶらぶらしながら
透明人間になりたいなあ、と夢見るように
呟く男。
透明人間になったら、食べてるたい焼き
だけ宙に浮いてみえるのかな、どう思う?
女は絶句しながらも男を憎めないのです。

無線飲食を覚悟で入った寿司屋で
たらふく寿司を食べた二人は、
こっそり時間差で店を出ることにします。

女が待つ場所に戻ってきた男は、
興奮気味に、仕事と住む場所を得たよ、
といいます。
女は訝しみながらもついて行くのですが…

男の天真爛漫なダメっぷりが
いっそ魅力的にまで思えてきます。

世の中は需要と供給のバランスがとれて
いればいいのだから、
男女間も組み合わせとして成立すれば
オッケー。

もし、まっとうな良いひとばかりで
構成されていたら、退屈かもしれません。

そして自由って。

何かを手にしているのが自由なのか。
逆に、何も持たないのが自由なのか。
どう捉えるかは自分次第です。

実は最後に、
この浮草男は本当に夢を叶えるのです。
なんとも意外なやり方で。

それは、ここで書くのはもったいないので
あなたの目でお確かめくださいね。



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