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ここのところ村上龍ばかり読んでいる。

アナログ的な、叙情的な読み物は全く
読まなくなってしまった。
自分がそれに近いものを日々書いているので、
お腹がいっぱいなのかもしれない。

この本は最近読んだエッセイの中では
好みの一冊だ。

身も蓋もないことが書いてある。
時には目を覆いたくなるようなことも。
彼は美しく抽象的に希望を綴り、
その奥にある不都合なものを隠蔽する
ようなことはしない。

それがわかっているから安心できる。
茫漠とした不安を和らげてほしいために
読んでいるわけじゃない。
その不安が何で構成されているのかを
くっきりと見せてほしいのだ。

エッセイの中に中上健次とのエピソードが
出てくる。
中上健次は深夜に彼に電話をかけてくる。
これからあいつを殴りに行くから一緒に来い。
わけがわからない。
でも、対峙しようとしているのはわかる。
それは本当は相手にではなくて、
自分になのだろうな、と思う。

もし逃げ回っていたいなら、
自分を誤魔化していたいなら、
彼の書くものを読むと気分が悪くなるかも
しれない。

でも、もう逃げるのも誤魔化すのもやめる、
そう決めたひとが読んだら
彼の言葉は砂金でできていると感じるだろう。


 
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ユウコは配送会社の事務をしている。
今夜は自分の同僚と家具屋で働く彼氏、
トシの同僚を居酒屋で引き合わせている。

本当は今日トシに話したいことがある。

ユウコは絵を描いている。
以前、西麻布のバーてホステスをしていた
とき、ユウコはある客に自分の手書きの
名刺を渡す。
画家なのか、ユウコは聞かれる。

毎日、しかも一日二十時間絵を描き続けて
飽きないなら画家だ。
その男はいう。

ユウコは彼を、他人だ、と感じる。
自分との間に見えないガラス板がある
ような。

一方トシは自分との境界線がない。
例えば一緒にテレビをみたり雑誌を読んで
いると、自分が自分なのかトシなのか
わからなくなる。

ユウコはある強い夢を抱く。それを現実に
しようとしている…

他人に言われる言葉はインパクトが強い。
関係に甘えがない分、説得力があるの
かもしれない。

彼女は今自分がなまぬるい内部にいること
そしてその向こう側にはくっきりとした
外部があることを知ってしまった。

そうなったらもう戻れないだろうな、
と思う。

蘇生、という言葉が何度も浮かんで来た。


空港にて (文春文庫)空港にて (文春文庫)
(2005/05)
村上 龍

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渡会は腕のいい五十代の整形外科医で、
充実した日々を送っている。
休みの日にはスカッシュをし、女たちと
煮詰まることのないスマートな恋愛を
繰り返す。誰とも結婚する気はない。

彼自身、こんな風に浅瀬にとどまったまま
穏やかに暮らしていくと思っていた。
その彼が初めてひとりの女性に激しい
恋をした…

この物語は、渡会の知人である僕と
彼の秘書であるゲイの青年から語られる。

軽い恋愛はインテリアやファッションの
ような、いわゆる趣味、嗜みなんだろうな
と思う。自分好きの延長。
そこから一歩踏み込むと、世界は全く
違う顔を見せる。

誰かに本気で恋をすることに免疫がない
渡会は、ある深刻な状況に陥っていく。
極限に近づく姿が淡々と、かつ克明に
描かれる。

それを追いながら、恋の病と精神の病に
境はあるのか、と考えていた。
少し狂うのは楽しい、少しの負荷なら
気持ちいいのだ。
でも、それが一日24時間を支配するように
なったら手遅れかもしれない。
その頃にはもう、恋から自分を引き剥がせ
ない。癒着してしまった皮膚みたいに。

彼は幸せだったのだろうか、と考える。
幸せか幸せじゃないかなんて、もう
どうでもよかったのではないか。

彼の部屋なのに本人がいない。
自分なんてものはとっくに明け渡して
しまっているのだ。

読後、いいようのない脱力感が残る。
でも、もう一度頭から読み返したいと
思わせる。
どこがだろう…
私にも、わからない。


女のいない男たち女のいない男たち
(2014/04/18)
村上 春樹

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過疎の離島、美浜島の大自然に包まれる
ように暮らす中学生の信之。
美しい幼馴染の美花と早熟な恋をし、
懐いてくる近所の輔を疎ましく思いながら
退屈な島の中でもそれなりに楽しく
日々を送っていた。

ある夜、美浜島に大津波が襲いかかる。
偶然にも山の神社に登っていた三人は
命を取り留める。島に住む者は全滅と
思われたが、虐待を繰り返す輔の父と
旅行者の山中が生き残っていた。

まもなく美浜島を出るという夜、ある事件
が起こる。信之は美花を救い出す。
それは暗い秘密となり、二十年の時が
流れる。

信之は公務員となり、南海子と結婚し
一人娘にも恵まれ、穏やかな生活を送る。
ある日、信之の元に輔が現れる…

圧倒的な暴力にさらされると人はどう
なるのか。物語では、その行方が重く粘る
ような筆致でシリアスに描かれている。

心を失った三人は、どのような力を使い、
どのように戦うのか。
癒えることのない傷は、本人たちの中だけ
に留まらない。周りの人間も怖れ、不安を
覚え、傷ついていく。

輔のねじ曲がった愛の求め方に、信之の
氷のような冷たさに胸が痛む。

なにより女優となった美花の心の闇が
あまりにも深く、誰の心よりも恐ろしく、
哀しい。
類稀ぬ美貌を持ち、かつ魔女のような力を
操り全てを意のままにするのに、
当人は不幸から抜け出すことができない。

損なわれてしまったものと、脈々と
続くものについて思いを馳せた。

この物語に光というタイトルをつける
三浦しをんのセンスに、ひれ伏したい
ような気持ちにさせられる。


光 (集英社文庫)光 (集英社文庫)
(2013/10/18)
三浦 しをん

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スポーツ用品店の営業マンである木野は
予定より早く出張から戻った夜に
自宅で妻の浮気を目撃してしまう。
相手は自分の職場の同僚だった。

木野はその足で自宅を出て行く。
勤め先を辞め、妻と別れ、ひっそりとした
隠れ家のようなバーを開く。
バーの名は木野という。

そこには一匹の猫が居付き、ぽつぽつと
常連客がつきはじめる。

カウンターの端に座って静かに本を読む
スキンヘッドの男。
情事の前か後に訪れる不穏な気配を
漂わせたふたりの男女。

木野は淡々と日々を送る。
古いレコードをかけて、客に酒を出す。
そしてある雨の夜、木野は常連客と
暗い秘密を共有する。

いつのまにか、店に猫が姿を見せなく
なる。
代わりに現れるようになったのは
たくさんの蛇だった…

店の空気というのは、どんな風に
つくられるのだろう。
誰かが訪れ、気配を落とし、帰って行く。
それが何度も何度も繰り返される。
誰かのため息が空気にとけて、別の客が
それを吸い込む。

読み進めるうちに、いつのまにか物語から
漂う濃い霧のようなものに取り巻かれて、
動けなくなってしまった。
私は陶酔しているんだと気づくのに
時間がかかった。
毒がまわった身体で、きらきらとした
啓示を見上げているようだった。

物語に出てくる回路が、自分の中にも
あるのはうすうす知っていた。

これからは注意深く迂回しなくては
ならない。
止まない雨の夜には、特に。


女のいない男たち女のいない男たち
(2014/04/18)
村上 春樹

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