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その男は海という字がつく名を持ち、
日本各地を転々とする宝石商だ。
鳥海、大海、古海…出会う女によって
告げられる名は様々だ。

女たちは男に出会い、目もくらむような
幸せを手にしたと信じる。未来に溢れる
ばかりの光をみる。
男がさらりと消えてしまったことに気づく
のは少し後のことだ。

一緒に住むためのマンションの手付金、
婚約指輪の代金。
申し訳ないけど今自分の金が動かせなくて
彼にそういわれて渡したお金とともに。

古海の結婚詐欺には手引きをしている女が
いる。
彼女、るりはカモになりそうな女を
見つけてきては、彼に情報を提供する…

誰の中にも欠落があって、わかりやすい
何か、例えば清廉潔白な愛などでそれは
埋められると期待してしまう。

でも、もっとヒステリックでねじれた形がぴたりとはまることもある。

なかでも古海とるり、古海の妻の初音の
心情は、深い深い洞穴を覗くようだ。
見てはいけないと信号が鳴る。

もくもくと立ち上っていく煙のような、
グレイッシュな感情に全身が取り巻かれ
ていく。
息苦しい、逃れたいと思う。
それなのに、なぜかそこにはかすかな
歓喜がある。
不思議だ。

ひとの心がわかりやすく書き割りで、
簡単に説明がつくもので埋められるなら
どんなにいいだろう、と思う。

欲望はそもそもねじれたものなのだ。


結婚結婚
(2012/03/27)
井上 荒野

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以前ここで紹介した、つやのよる
DVDになっていたので観てみました。

艶の夫、松生を阿部寛が演じていますが、
ただ自転車を漕いでるだけなのに
このひとちょっとおかしい…とわかるほど
異様な存在感を放っています。
ぬめっとしたゾンビっぽさ。狂ったまま
生気だけ抜いたような気配。
ああっ松生だ…
彼のシーンに終始釘付けでした。

太田役の岸谷五朗も、期待を裏切らず
ほとんど妖怪レベルの不気味さです。
不動産を持つ資産家ですが、引きこもりで
コミニュケーション障害気味の変人。
姿は白髪混じりのおかっぱで着流し…
でもどこかかわいいところが、すごい。

脇役陣も素晴らしく、荻野目慶子の
ただならぬ妖艶さとキレっぷりに見とれ
奥田瑛二の不埒な色気に圧倒され…
余すところなしの豪華さなのです。

それでも、この映画はしんとしています。
原作の雰囲気そのままに。

やりきれない感情を長く抱えた女たち。
みな一様に、間接的も含めて艶に自分の
夫や男や父をとられているわけですが
モルヒネを打って眠る艶の姿を
実際に見たり、現実として受け止めると
ふっと表情が緩むのです。

あきらめが滲んで泣き笑いみたいになる。

女ってすごいな、と思います。



つやのよる (新潮文庫)つやのよる (新潮文庫)
(2012/11/28)
井上 荒野

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ある小さな町。ハム屋の旦那が亡くなった
知らせを妻から聞く男。

男は仕事の依頼がないイラストレーター。
もしもミックジャガーなら、通夜には
行かずにハム屋の歌を書くだろうな、
と彼は思う。

久しぶりに喫茶店で待ち合わせた
元彼女からは、彼女を撮った写真のネガと
貸した金17万を返せと言われる。

それを5万に値切るつもりで、一度家に
戻って妻に金を借り、再び待ち合わせ場所
に向かう途中で、路上ライブで歌っている
女の前で足を止める。
結局待ち合わせに行かずその女と飲みに
いき、よせばいいのに口が勝手に
口説き始める…

井上荒野は軟体動物みたいな男を書くのか
本当に上手いなあ、と思います。
深い思考も洞察もなく、反射と愛嬌だけを
持ち合わせてふらふら生息するような。

ふまじめでいいかげん、風の吹くまま。
周りの人々は彼にほとほとあきれている
けれど、死ぬほど憎まれるわけでもなく。
何故か彼の妻や子供たちは皆、びしっと
しっかり者だったりするのです。

それも自由のうちなのかな、としばらく
考えていました。
あらゆるものから逃げる術に長けて
いるのは。
誰にも捕まらず、責任も追わず。

(追っ手がある以上自由ではないな…
ひとり納得。)

どうぞ逃げ切れるならいっそそのまま。

もし私が彼と町で出くわしたなら、
ジャンプして飛び越えさせていただき
ますけれど。
ハードル跳びの要領で。



文学界 2013年 08月号 [雑誌]文学界 2013年 08月号 [雑誌]
(2013/07/05)
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艶。
多くの男たちと関わってきた色狂いの女。
ひらひらと曇り空を舞う揚羽蝶のような。

物語は艶と関わった男たちの妻や娘、
恋人が語り手となり綴られていきます。

O島に住む艶が危篤であるという知らせが
水辺にぽちゃんと落ちた石の周りに
さざ波が広がるように、周りの人々の心を
不安定に波打たせていきます。

そして、ゆらりと不穏な印象を与えるのが
艶の夫の松生です。

彼は艶と出会った瞬間から、
ただ忙しかったのだというのです。

当時の妻に別れを切り出すことや
艶と結婚し一緒に住む場所を探すことや
二人の生活のために仕事を始めることや
艶の終わることのない男漁りを監視する
ことや艶の危篤を彼女と関係した男達に
知らせることや艶が病院のベッドで何本
ものチューブに繋がれて死にゆくのを
見つめることに。

松生の艶に対する気が触れたような執着。

この男は全部を艶に差し出すことを
望んでいる。身体ごと。
艶がこの世からいなくなったら自分も
消えてしまうのではないかと思うほどに。

松生の、愛にしては行き過ぎた感情に
変に心がざわざわしてそれが止まらなくて
ひとが持つ元々の性質と組み合わせと
それから何かの符合が一致した瞬間に、
終わることのない執着は生まれるのかも
しれない。それはある種の幸福なのかも
しれない、絶望をはらんだ稀有な…
などと思い巡らせてしまいました。

艶とはどんな女だったのか。



つやのよる (新潮文庫)つやのよる (新潮文庫)
(2012/11/28)
井上 荒野

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ホームドラマみたい、と思いました。
読み始めた、ほんの最初のうちは。

この物語では
お惣菜屋「ここ家」を切り盛りする、
還暦あたりの女たち3人と
出入りするお米屋さんの青年との
にぎやかな日々が描かれています。

サツマイモと一緒に煮るなら
鰤と烏賊どっちにする?
トウモロコシは一本だけつけ焼きにして
おやつにしましょうよ。

合間合間に回想されるのは、
女たちの元夫や子供や恋人のこと。
さみしさやあきらめが
からりと、時にはほとんど痛いくらいせつなく。

あえて目を向けようとしなかったこと。
慣れてしまうこと。
長く長く時間をかけてようやく気づくこと。

さまざまな思いを受け止めながら
酸いも甘いも知った女たちは
円熟な微笑みをみせるのです。

なんといっても
お料理がおいしそうなんですね。

がんも、あさりフライ、
だし巻き卵、鰆の照り焼き、
豆ごはん、キャベツ炒め、
里芋のコロッケ、焼き穴子のちらし寿司。

ああ、おなかすいた。



キャベツ炒めに捧ぐキャベツ炒めに捧ぐ
(2011/09/01)
井上 荒野

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